大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)1269号 判決

(被控訴人の第一次的請求について)靏田晋平が被控訴人に対して借用書代りと言つて振り出した約束手形及び小切手には、振出人として靏田晋平個人の氏名が記載してあり、かつ控訴人自ら銀行業務を営む相互銀行であるに拘らず、右手形小切手の支払場所ないしは支払人として株式会社千代田銀行横浜支店と表示してあり、さらに靏田晋平がこれに附することを約束した利息は一カ月五分で、通常の銀行取引の利息といちじるしい差違のある高利であることから考えれば、被控訴人が控訴銀行の代理人としての靏田晋平に金員を貸し渡したとは認められず、かえつて証拠を綜合すれば、靏田は被控訴人に対して、控訴銀行の無尽落札者が落札後現実に無尽給付金を受け取るまで一週間程かかるので、その間落札者中無尽給付金を直ぐ受け取りたいという者に貸す金に使用するのであると申し向け、靏田個人としていわゆる浮貸をする金であることを明らかにして被控訴人から金員を借り入れたものであつて、右は靏田晋平個人の借入金であることが認められるから被控訴人の第一次的請求は失当である。

(被控訴人の第二次的請求について)前段認定のように靏田晋平が個人として被控訴人から金員を借り受けたと認められる以上、靏田が右金員を控訴銀行の用に供するものと申し向けて被控訴人を欺いたとの被控訴人の主張事実は認め難く、これによつて被控訴人が靏田晋平に対する損害賠償債権を有するに至つたものとはいい得ない。しかも本件金員は、靏田が控訴銀行から落札によつて無尽金の貸付を受けることとなつた者に、落札後無尽金の給付を受けるまでの間貸付をする資金として被控訴人から右金員を借り受けたことが明らかであるから、右靏田晋平の行為を以て控訴人の事業の執行につきなされたものとはいい得ない。従つて控訴人の被用者である靏田晋平の不法行為による被控訴人の控訴人に対する請求は失当である。

(被控訴人の第三次的請求について)被控訴人主張の基本債権はこれを認定することができるし、被控訴人主張のような経路を経てその建物の所有権が移転してその旨の登記がなされたことは当事者間に争がない。しかしながら、証拠によれば控訴人は、靏田晋平に対し昭和二十七年十二月一日現在において四十九万五百円の損害賠償債権を有していて、靏田に対しては固より同人の身元保証人である菊島清治に対してもその支払を請求していたところ、同年十二月二十七日三者合意の上右損害賠償債務中四十万円の弁済に代えて靏田の所有に係る建物の所有権を控訴人に移転することとし、同日の売買を原因として菊島清治から控訴人に対し所有権移転登記がなされたことが認められる。そして控訴人は当時、靏田が被控訴人に対して約束手形金並びに小切手金債務を負担していたことを知らなかつたことが窺われるので、仮に靏田晋平と靏田薫間の右建物の所有権移転が詐害行為となるものとしても、転得者たる控訴人は転得の当時右詐害の事実を知らなかつたものとなすを相当とするのみならず、本来債務の弁済は、たとえそれが一部の債権者に弁済したにすぎない場合でも、債務者が特に右債権者と通謀して他の債権者を害する意思をもつてしないかぎり、詐害行為とならないものであつて、代物弁済の場合であつても、代物の評価が相当であるかぎり、この理はかわらないというべく、本件において右建物を四十万と評価したことは不当に低廉とも見られないので、これを以て控訴人が悪意であつたともいえない。従つて控訴人を悪意の転得者であるとして本件建物の所有権取得登記の抹消登記手続を求める被控訴人の請求は失当である。

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